2016年4月17日日曜日

「負け癖社員」を6カ月で変える方法 〜気になった記事〜

花々が咲き誇り、夜は世界最大1300万球のイルミネーションが彩るハウステンボス。年間300万人が訪れる人気施設だ。だがこれまでの道のりは、順風ではなかった。1992年の開業以来、18年連続で赤字だった。

 2010年、そのハウステンボスの再生人として白羽の矢が立ったのが、旅行会社エイチ・アイ・エス(HIS)の創業者で現会長の澤田秀雄さん。「最初に見に行った時、園内は閑散としていて、再生できないと断りました。しかし地元の佐世保市長に3度頼まれ、引き受けることにしたんです」と振り返る。澤田さんがまず注力したのが、社員の「負け癖」を無くすこと。その結果、社長就任後たった6カ月で黒字に転じた。そんな澤田さんに、「負け癖社員」を変える方法について聞いた。

■「15分の掃除」「明るく振る舞う」「早足で歩く」が、再生の第一歩

──社長に就任した当時、社内の雰囲気はいかがでしたか。

 社長に就任した4月1日、全社員を集めたのですが、元気がなかったですね。社内の雰囲気もとても暗かった。18年間ずっと赤字ということは、「ボーナスが出ない」「給料も上がらない」「優秀な人材も去っている」ということ。社長が9回も代わっていますし、「頑張っても黒字にならない」というあきらめが蔓延していた。明るくなれるわけがなく、負け癖がついている状態でした。

──どうメスを入れたのでしょう。


 私が意識したのは、とにかく分かりやすく、すぐに実行できる「働き方の改革案」を提示し、現場の雰囲気を変えること。「ランチェスター戦略」とか「孫子の兵法」などと難しい話をしても、簡単には伝わりません。今すぐ誰でもできることで結果を出し、負け癖体質を少しずつ変えようと考えました。

 具体的に求めたのは3つの働き方です。(1)出勤後15分の掃除、(2)嘘でもいいから明るく振る舞う、(3)早く歩く、この3つを実践すれば黒字になると訴えました。

──この3つだけで、黒字になるとはとても思えません。


 最初は皆、狐につままれたような顔でしたよ(笑)。でも「だまされたと思ってやってみなさい」と。

 この3つの働き方には、それぞれ意味があるんです。まず「15分の掃除」ですが、これは今まで何百という会社を見てきた経験則によるものです。成功している会社は、オフィスや工場がきれいです。逆に整理整頓ができていない会社は、低迷していく。環境の乱れが、社員の士気低下を招き、投げやりな雰囲気を作り出す温床なのでしょう。だから、毎朝15分だけ、私や役員も含め、全員で掃除をすることにしました。

 「嘘でもいいから明るく」というのは、「内心はどう思っていようと、明るく振る舞えば、自然と前向きになれる」ということです。落ち込んでいても、何も解決しません。それにお客様に暗い顔を見せるのは、申し訳ないじゃないですか。社員が明るく元気になれば、それだけで活気づきます。

──最後の「早く歩く」というのは、何か効果があるのですか。

 これは経費削減のことをかみ砕いて伝えているんです。会社の再生に経費削減は必須。しかしいきなり「削減して」と言われても、何をすればいいか分からない社員もいる。だから、「早く歩いてください」と伝えました。広大な面積を誇るハウステンボスは、端から端まで歩くと30分かかるのですが、早く歩いて25分で済めば、2割のムダが省ける。転じて、8時間の仕事を7時間で終らせれば、経費削減につながります。実際にこの3つの行動を実践し、たった6カ月で黒字化したんですよ。


■相次ぐ失敗も成長の芽として前向きに捉える

──社内は変わりましたか。

 黒字化し、ボーナスも出たことで「やればできる」という気持ちが芽生えてきました。18年間できなかったことを実現したのですから、自信もつきますよね。


──その後も右肩上がりに業績を伸ばしています。

 実は失敗も多いんですよ。その時、社員には「失敗から学ぶ」ことを求め、失敗を成長の芽とするよう言ってきました。失敗を放置すると、自暴自棄になり負け癖がついてしまいます。しかし、失敗と向き合い、原因を把握するようにすれば、必ず勝ちにつながります。

──具体的には、失敗からどう学んでいったのですか。

 最初の失敗は、入場料を下げたことです。HISは格安販売が得意なので、その考え方を導入しました。しかし安くしても、お客様は来なかった。この失敗を放置したら負けにつながりますが、「なぜ安くしてもダメだったか」考えた。すると、「いくら安くても、目新しい面白さがない施設には来ない」ことが分かりました。

 そこで次は、お客様を楽しませるイベントをやろうと考えた。それで、開催したのが陶器市です。ハウステンボスの近くには有田焼で有名な有田町があり、有田陶器市には1週間で100万人もの人が集まる。その5分の1でも流れてくれればと考えたのですが、集客につながらなかった。

 失敗の原因をまた考えました。有田陶器市は100年以上の歴史があり、しかも無料。歴史もなく、入場料も必要な私たちに勝ち目はなかったのです。ただこの失敗で、「オンリーワンかナンバーワンのイベントが必要」なことを学べました。そこで「100万本のバラを使ったイベント」や「世界一のイルミネーションが見られるイベント」を開催し、成功したのです。

──失敗から学んで勝ちにつなげたんですね。

 「失敗を放置しない」のは、私の信念です。私はこれまで数多く失敗してきました。例えば1999年にエイチ・エス証券を創業した際は、ネット取引システムのトラブルで営業停止処分を受けました。この時も、なぜ失敗したかを考えた。結論の1つは、金融に関する知識が乏しかったこと。そこで、赤字だったモンゴルのハーン銀行の経営を引き継いだ時には、金融のプロに頭取を任せ、自分は一歩引いた立場を取ったところ、再建できました。失敗から学んで次に生かす。こうすれば、負け癖がつくことはありません。

■「分かりやすい根拠」を示して、撤退、改善を決める

──負け癖を解消するために取り組んだことは、ほかにありますか。


 「分かりやすい根拠」を示して、改善を促しています。「これを変えて」と上から指示しても、「根拠もなく言っている」と不満が募り、士気が下がって負け癖につながるんです。

 具体的には、サービスやイベントについてお客様からアンケートを取り、それを点数化。その点数を基にサービスの改善や廃止を決めています。5点満点中、4.5点以上は「文句なしにいい」、3.5未満は「そのイベントを廃止する」と、明確な基準を設けています。

 お客様の声を点数として可視化しているわけですから、イベントやサービスの改善・廃止が決まっても、誰も文句を言いません。推進力を持って変革できるのです。


──社員の負け癖は消えましたか。

 社員たちは変わりました。「必ず黒字にする」と、前向きに励んでいますよ。現在のハウステンボスに点数をつけると、57点です。及第点は60点なので、まだ達成していません。改善できる可能性があるということです。

 ただ忘れてはいけないのは、徐々に変えること。環境を変える時は、ゆっくり、ゆっくり変えていかなければなりません。急激に変えると、ついてこられない人が出てきます。 ハウステンボスはダイヤモンドです。最初は石ころだと思っていましたが(笑)。これからもっともっと面白くなりますよ。

〜ここまで〜

参考になること
働き方
(1)出勤後15分の掃除
(2)嘘でもいいから明るく振る舞う
(3)早く歩く → 業務改善が思い浮かばなくても誰でもできる業務の効率方法

・ 相次ぐ失敗も成長の芽



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