2016年9月27日火曜日

気になった記事 〜「働きがいを感じない」 残業ゼロ企業の盲点〜


〜ここから〜
――ランクアップを残業のない会社にしようと思ったきっかけは?

岩崎 以前働いていた広告代理店は、長時間残業が当たり前の「ブラック企業」でした。私も毎日終電まで働き、取締役になりましたが、女性社員の多くは出産すると働き続けることができず退職していきました。

 そこでランクアップの起業後は「残業しなくていい会社にしよう」と思い、定時が午後6時で、1時間程度残業するペースで働けるようにしました。長時間労働時代の私に言わせれば、午後7時なんてまだ昼間、これから仕事する時間、という感覚です。

 ところが2009年に自分が出産して、それでは不十分だったことに気付きました。午後7時に退社して保育園に子供を迎えに行くのはとても慌ただしく、大変だったのです。そこで定時を5時半にして残業なしで働ける環境にしようと。それがさらに切り上がって、2011年からはほとんどの社員が5時に帰るようになりました。

――育児中の社員には、時短勤務を適用する会社が多いなか、あえて全員が5時に帰ることにこだわったのはなぜですか。

岩崎 時短勤務社員とその他の社員の退社時間の差が不幸を生むからです。

■時短勤務に引け目、居場所がなくなる

 7時までいる社員と5時までの社員では仕事量に差が生じてきます。残っている社員は「子供がいる人ばかり早く帰ってずるい」と思うし、ママ社員からすると、遅くまで働く社員がいるから早く帰りにくい。それが続くとお互いに不幸になる。ママ社員は時短であることに引け目を感じて、責任のない仕事を選んだり、結局居場所がなくなって辞めてしまったりする。

 皆が早く帰る職場になったら、時短を取る人も後ろめたさがなくなるでしょう。だから「全員5時ピタ」にこだわりました。

 5時に帰るようになると、子供のいない社員もスポーツクラブに行ったり、研修に参加したり、映画を見たりと、インプットする時間が増えました。研修などの費用は、全額会社が負担し、本の購入や美術館などに行く費用も助成しています。結果的に多くの収穫がありました。

――新商品のアイデアが生まれるとか?

岩崎 朝専用の洗顔剤や、手を汚さないスティックタイプのファンデーションなどが社員の発案で生まれました。創業以来の基幹商品で累積販売本数が600万本を超える「ホットクレンジングゲル」に加えて、収益の柱になりつつあります。

商品だけではありません。私たちの会社のミッションは、「女性が幸せに生きる社会を作る」ということなのです。今は女性を若々しく元気にするために化粧品を作っていますが、今後はベビーシッターとか家事代行とか、女性が一生輝いて働くための問題解決の事業を始めたいのです。

 新卒社員の採用を始めて3年になりますが、この人たちには将来の新規事業の部長を目指してもらいたい。20代のうちに事業を考えることを課しています。そのために多くのインプットを得て、発想力や実行力を身に付けてほしいと思っています。

――売り上げが伸びているのに、勤務時間は短い。社員は幸せですね。

岩崎 今はそう感じている人が多いと思います。でも2013年ごろまではそうではなかったのです。

 残業をやめようとした当初は「早く帰れと言われても仕事が終わらない」と反発されました。そこで仕事を全て棚卸しして、IT化やアウトソーシングによる業務の効率化を徹底的に進めました。

 例えば経営戦略室では、経営データを管理して毎週報告するのですが、残業がすごく多かったのです。そこで担当者は、自分が分析しなくてはいけない仕事の数字を全て洗い出しました。顧客分析やリピート率の算出の手法を整理して、基幹システムなどから取り込んだデータを自動的に加工する簡単なシステムを作ったことで仕事が大幅に効率化されました。

――IT化やアウトソーシングのコストがかさみませんか。

岩崎 もちろん会社の収支計画に基づいて判断しますが、基本的に赤字にならない限り、アウトソーシングやソフトには投資しています。利益を残すより、効率を上げたいという気持ちが強いんです。例えば、カタログなどに載せる商品の写真にしても、ちょっとカメラの腕のある社員に撮ってもらうと確かに安くつきます。でもその社員の時間を取られてします。ならば撮影はプロにお任せした方がいいんです。

 今でも毎月、誰がどれくらい残業しているかを役職者会議で確認しています。理由がある残業はいいのです。「来月はお客様向けのイベントがあるから、○日までは週2回ほど1時間ずつ残業します」とか。でも理由のない残業は見逃さないようにしています。必ず理由を確認して、「じゃあ、翌々月からは残業しなくていいね」と。

 なぜそこまでやっているかというと、やっぱり人間って楽な方に流れるので「ちょっと残業しちゃえ」となるんですよね。45人の社員のうち、そういう人が少しずつ増えてくると、だんだん長時間労働の風潮に戻ってしまうのです。

■「会社に貢献できない」と泣く社員

 こうやって、残業しなくても仕事が回る仕組みができていったのですが、それでも社員の不満は消えませんでした。

――なぜですか。

岩崎 「仕事が楽しくない。やりがいがない」と。そう思っている社員が多いので、会社が暗いんです。どうすれば変わるのか、本当に悩みました。

 会社の数字はうまくいっていても、一体感がまるでなかったので、すごく暗いし、全然和気あいあいという感じじゃなかったのです。私だけでなく、一緒に起業した取締役の日高(由紀子)も、そう感じていました。体調不良で倒れる社員が続いた時期もあったのです。

 それで社員が元気になるような研修を探して、金融機関の方から「2泊3日で一体感が生まれる」という研修を紹介してもらいました。お互いの強み、弱みを理解したうえで会社の方向性を話し合って、最後に「自分たちが会社にどう貢献できるか」を宣言するというものでした。管理職と一般社員でチームを分けたところ、管理職のチームはすごくうまくいったんです。

 ところが、一般社員の研修の最終日に、社員全員が「会社からまるで認められていないのに、そんな宣言はできない」と言って泣きだしたそうで。研修講師から電話がかかってきて「岩崎さん、大変です。今すぐこの研修の会場に来て、社員みんなに謝ってください」と言われたんです。

「早く帰れるようになったのに社員は暗く、やりがいを感じていなかった。どうすればいいのか、本当に悩んだ」という(写真:村田和聡)
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「早く帰れるようになったのに社員は暗く、やりがいを感じていなかった。どうすればいいのか、本当に悩んだ」という(写真:村田和聡)
 私も日高もずっと夜中まで働いてノルマをこなすという働き方をしてきたので、早く帰れる会社を作りたかった。それは実現できたのですが、早く帰れるけどやりがいがまるでない会社になっちゃったんです。

 例えば、私と日高は社員に、「仕事中に別の部署の社員とあまり話さないように」と言っていた時期がありました。ちゃんと理由があって、仕事の悩みや困っていることを、社員同士で話してもあまり解決にはならないので、上司に聞いた方が早いからなんです。でもそれをきちんと説明しないから、社員には伝わらない。

 一事が万事そうで、私と日高が話し合って方針を決めると、それを前後の説明なく社員に下ろすので、社員にとっては「岩崎と日高が考えたことをその通りやりなさい」という軍隊みたいな組織になっていたのです。会議で発言すると、私たちにつぶされるから怖くて言い出せない。今回本を書くときに初めて聞いた話ですが、「社長がトイレに行っているときは、会いたくないからトイレに行かないように我慢していた」という社員もいたそうです。本当に暗黒時代だったんだなあと。

■会社が暗いのを社員のせいにした

 今はそれに気づきましたが、当時は社員が悪いと思っていました。やる気がない。何でやる気がないんだろうと。私と日高は正しくて社員が間違っていると思っていました。それを変えるために、いろいろな経営手法を試行しました。

――会社の理念や行動規範も何度も変えたそうですね。

岩崎 出産を機に「感動、感謝、情熱」という最初の理念を作りました。「社員、取引先、お客様、全ての人に感謝します」といった、八方美人的なものだったんです。すると社員から「取引先を大事にするのに、相見積もりを取るのはおかしい」と指摘されました。「言ってることとやってることが違う」と思われてしまったのです。そこで第2バージョンを作りました。

 これがまたダメで(苦笑)。理念に「私たち自らが人間力向上に努め」と書いたり、行動規範に「私たちは愚痴、陰口を言わず気持ちよく仕事します」という文言を入れたりしました。当時社内に「うちの会社最悪だよね」といった陰口がまん延していました。私がワンマンだったせいなのですが、それを社員のせいにしたわけです。今振り返ると、「人間力を上げなきゃいけないのはお前だよ」と当時の自分に言いたいですね。

■「丁寧に説明」を心がけ、変わり始める

 どうしたらいいか分からず、いろいろなコンサルティング会社に「助けて」とお願いした時期もあります。ある会社が「岩崎さんと日高さんが絶対譲れない価値観を社員に発表するといい」と助言してくれました。そこで2人で話して、「挑戦」という価値観を決めました。「私たちは挑戦が好きだから会社を立ち上げた。勇気ある挑戦で事業領域を広げていこう」といったことを社員に話そうと。

 それを発表すると、いつものように社員はぽかんとなるんですよ。「またうちの社長は誰かに何か、入れ知恵されたな」と。

 でも今回は、なぜこうした価値観を打ち出したか、背景をちゃんと説明したのです。私と日高が1年かけて考え、決めたことを、社員にぽんと言うだけでは伝わらない。ようやくそれが分かったので、丁寧に説明して、少しずついい方に変わってきました。社員が自分の意見を言うようになり、私もぴしゃっとつぶすのをやめて任せるようになりました。

――丁寧に伝えるのは大事なことですね。

岩崎 さきほどアフター5に研修を受ける社員もいると話しましたが、ロジカルシンキングを学ぶことも推奨しています。

 例えば社員が改善のアイデアを思い付いて、会議で発表しても「なぜそう思ったか」「それによって仕事がどう変わるか」まで説明できないと、「思い付き」と思われてしまいます。自分がそうだったからよく分かるのです、だから提案するときは「目的」「メリット」「懸念点」の3つを文書にまとめることをルール化しています。

 ただパワーポイントで作り込むのは禁止で、必ずワード1枚でまとめてもらいます。社内会議の資料作りに時間をかけていたら、5時に帰れませんから。

〜ここまで〜

・ 部下のせいにせず、自分の説明の仕方が悪い。
→ 「丁寧に説明」を心がけ、変わり始める

・ 提案するときは「目的」「メリット」「懸念点」の3つを文書にまとめることをルール化

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